研究内容紹介
物質の性質(物性)を決めるのに最も重要な働きをしている電子は,電荷以外にスピンという属性を持っている。
このスピンは量子力学によって初めて理解されるもので,簡単にいえば小さな磁石とみなすことができる。
物質の中で電荷とスピンをもった電子がどのような運動をしているかによって物性が決定されるが,
電子の運動という場合,その運動は古典力学(ニュートン力学)ではなく量子力学によって支配されており,運動というよりは状態という言葉が使われる。
物質中の量子力学的電子状態は,物質を構成する原子の種類やその配列の仕方によって異なったものとなり,
その結果として磁性,誘電性,超伝導などの多様な物性が発現する。
我々の物性理論研究室では,「これらの物性が生じる起源,機構は何か?」という基礎的な視点と,
「これらの物性をうまく利用することで,役に立つものを作り出せないか?」という応用的な視点に立った研究を行っている。
鈴木グループ(量子物性理論)では,構成原子の種類とその配列を与えるだけで,
量子力学的に物質中の電子状態を求めることのできる第一原理的電子状態計算手法に基づいて,
100万気圧以上もの高圧で示す特異な物性現象の解析や予測を行うと同時に,
人工的に原子を配列させて自然界には存在しない新しい機能を持った物質を設計することを試みている。
また,相互作用するスピンが発現する多彩な相転移や磁気現象(量子スピン系特有な物理現象)の研究も行っている。
伊藤グループ(計算物性科学)では,ナノスケール複合物質(ナノ構造磁性体やメソスコピック超伝導体など)における輸送特性についての研究を,
従来の理論物理学的な手法だけでなく計算機シミュレーションを用いて行っている。
特に最近では,電子のスピンを用いた新たなエレクトロニクス(スピントロニクス)分野における新奇な物理現象の探索および新機能デバイスの開発にチャレンジしている。
スピントロニクスの研究分野に関する紹介記事としては,
“スピントロニクス入門:トンネル磁気抵抗効果” 伊藤博介 関西大学理工学会誌 理工学と技術 Vol. 14, pp. 45-50 (2007).を参照されたい。
物性理論研究室の研究を行う上で最低限修得しておくべき科目は,専門科目として物性物理学・量子力学・統計力学・計算機シミュレーション,
これらの土台となる基礎科目として力学・電磁気学・数学が挙げられる。
また,読解力はすべての学習において基盤となるものなので,国語・英語も必要であることは言うまでもない。
さらに,現在では物性物理学と化学・生物学との境界がはっきりとしなくなってきており,境界領域にこそ新しい問題・おもしろい問題が潜んでいると認識されている。
したがって,これらの新しい研究領域に挑戦しようとするなら,化学や生物学を学んでおくことも必要である。
最近では,情報理論や経済学にも物理学の手法が応用され,新たな研究分野が生まれている。このような状況を考えれば,物理学の範囲にとどまらず,
さまざまな勉強をしておくことは皆さんが将来研究をする上で無駄にはならないだろうし,また皆さんの可能性を広げることにも役立つはずである。
もちろん,何を学ぶかも重要であるが,それと同じかそれ以上に重要なのは,どのような態度で学習に取り組むかである。
受け身の学習では,講義の板書以上の情報は頭の中にインプットされないし,知識としてはかろうじて頭に残るかもしれないが,それを使いこなせるようにはならない。
より多くの情報をインプットし,それを使いこなせるようにし,単なる知識を知恵へと昇華させるためには,自ら積極的に学習に取り組むより他はない。
自分の手を動かし,自分の頭でとことんまで考え抜くことが大切であり,皆さんにはこれを日々実践して欲しい。